職業倫理シリーズ ver.1

職業倫理シリーズ Final

8.その他の行為基準

基準8(1)  会員は、証券分析業務を行う場合には、すべての顧客を公平に取り扱うようにしなければならない。

〔趣旨〕
 証券アナリストの社会的信頼性を確保するために設けられた規定。

〔留意点〕
 公平に:獲得できる対価等に関係なくすべての人を平等にという意味ではなく、例えば、全く同じような状況の人が2人いた場合、両者に対して平等にという意味である。

〔事例〕
・ 会員が10社の顧客を抱えているが、10社のうち3社は担当者が気に入らないということで、情報の開示を故意に遅らせている状況。
・ ファンド管理者の会員が3つのファンドのマネジメントをしており、そのうち2つについて積極的に投資売買を繰り返し、もう1つは怠慢により、基本的に内容変更をしない場合。

基準8(2)  会員は、自己の証券保有や個人的取引によって、公正かつ客観的な証券分析業務の遂行を阻害しないよう注意しなければならない。

〔趣旨〕
 基準6(1)の規定により、会員は公正かつ客観的な証券分析業務を阻害すると合理的に判断される事項を顧客に開示する義務があるが、これは開示すれば何をやっても許されるという規定ではない。そこで、開示の有無に関わらず、自己の証券保有や個人取引により顧客のために行われるべき証券分析業務をゆがめることがあってはならないため、基準5(1)、基準2(3)、基準3(1)イ(イ)とは別に、確認的な規定として存在。

〔留意点〕
 自己の証券保有や個人的取引:実質的保有より広く、友人や親類などの取引も含む概念である。

〔事例〕
・ 会員がA会社のレーティングを「中立」から「買い」に変更する前にA社株式を購入した後、誇張した表現で書いたレポートを発表し、株価が大幅に上昇したので株式を売却した場合。
・ 義理の母の申し付けにより、他の顧客に優先して、重要な知りえた情報を伝えている場合。

基準8(3)  会員は、証券分析業務を行う場合には、証券の発行者等との関係において、独立性と客観性を保持するよう注意し、公正な判断を下さなければならない。

〔趣旨〕
 証券アナリストは、立場上、発行会社と直接、間接に様々な関係ないし接触の機会を持つことになるが、そうした関係によって公正な判断が阻害されないよう、常に独立性と客観性の保持に注意すべきであるという規定。

〔事例〕
・ 会員が行う調査レポートの対象会社から、様々な接待を受け、当該会社だけは株価にマイナスの材料が存在していても全く取り上げない状況。

基準8(4)  会員は、証券分析業務を行う場合には、当該業務の依頼者である顧客に関し知り得た秘密を他に漏らしてはならない。

〔趣旨〕
 顧客が会員を信頼して、自己の財産状況などを開示するのは、会員が専門家であり、他に当該情報を漏洩しないことが前提となっている。そのため、当該信用を失墜する行為を防止するために規定。

〔事例〕
・ 保険業を営む友人に自己の持つ顧客の情報を横流しする行為。

基準8(5)  会員は、検定会員等の会員称号を使用する場合には、称号の権威と信頼性を保持するよう良識ある方法を用いなければならない。

〔趣旨〕
 称号の使用を誤って利用された場合には、会員に対する信頼性を失いかねないため、称号の使用について慎重になるべきとする規定。

〔事例〕
・ 検定会員は国家試験に基づく資格ではなく、あくまでも専門職業団体の自主努力に基づく資格であるのに、あたかも国家資格であるとの説明をした場合。

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職業倫理シリーズ NO.13

7.未公開の重要な情報の利用の禁止等

基準7(1)  会員は、証券の発行者との信任関係その他特別の関係に基づき当該発行者に係る未公開の重要な情報を入手した場合には、これを証券分析業務に利用し、または他の者に伝えてはならない。

〔趣旨〕
 会員自身がインサイダー(内部者)である場合又はこれに準じる立場にある者として未公開の情報を入手した場合の規定である。証券投資に関する情報がすべての投資家に公平に開示されず、内部情報を入手した一部のものだけがそれによって利得を得ることになれば、証券取引当事者間の公平を損なうのみならず、公正な証券価格の形成を妨げ、一般投資家の証券市場に対する不信感を招き、証券市場の健全な発展を阻害するため規制。

〔留意点〕
 未公開:一般の投資家が知らない状況をさす。
〔事例〕
・ A社に勤めるaさんが、顧客であるB社のM&A計画を知り、同じく顧客であるC社へ未公開情報として提供する行為。

基準7(2)  会員は、証券の発行者に係る未公開の重要な情報を入手した場合において、その情報が信任関係その他特別の関係に基づく義務または法令もしくは関係諸規則に違反して伝えられたことを知りまたは知りうべきときは、これを証券分析業務に利用し、または他の者に伝えてはならない。

〔趣旨〕
 会員がインサイダー(内部者)である場合又はこれに準じる立場にある者以外で未公開情報を入手した場合の規定である。証券投資に関する情報がすべての投資家に公平に開示されず、内部情報を入手した一部のものだけがそれによって利得を得ることになれば、証券取引当事者間の公平を損なうのみならず、公正な証券価格の形成を妨げ、一般投資家の証券市場に対する不信感を招き、証券市場の健全な発展を阻害するため規制。

〔事例〕
・ 友人が行っている会社が大手企業との事業提携などの契約に関し、友人と食事した際に聞き、自己が管理するファンドに当社の株式を組み込む場合。
・ 友人である新聞記者からM&A情報を入手し、自己が管理するファンドにM&A先の株式を組み込む場合。

基準7(3)  会員は、証券の発行者に係る未公開の重要な情報を発行者から直接入手した場合において、その発行者が当該情報を公表することが適当と判断されるときは、発行者に対しその公表を働きかけるよう努めるものとする。

〔趣旨〕
 会員が基準7(1)や(2)の規定があるため、仮にインサイダー情報を入手してしまった場合に、投資レポートなどを発表することが困難になってしまう。そこで、発行者に対し、インサイダー情報の早期開示を促すことにより、他の投資家との公平性を保つために当該規定がある。要するに情報の格差を早期に是正される趣旨である。

〔留意点〕
 公表することが適当と判断される:取締役会などにより既に発行者の意思決定が確定しており、公表可能な状況になっている場合。

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職業倫理シリーズ NO.12

6.利益相反の防止および開示等

基準6(1) 会員は、公正かつ客観的な証券分析業務の遂行を阻害すると合理的に判断される事項を、顧客に開示しなければならない。

〔趣旨〕
 信任義務を負っている会員は、本来、客観性と公平性を阻害する可能性があるような状況下に自己を置かないように努力をする必要がある。しかし、本人が意図するかどうかにかかわらず、顧客の利益と会員の利益が相反(顧客に利益が生じると会員は損失を被り、逆に会員に利益が生じると顧客に利益が生じるような状況)する状況になる可能性がある。このような場合には、当該状況を顧客に開示させることによって、投資推奨や投資管理等の証券分析業務の受入の判断を顧客に判断してもらうことを要請したものである。

〔留意点〕
 会員が証券の発行者たる会社の役員に就任している場合や証券の発行者たる会社とコンサルタント契約を締結している場合などが該当。当然、会員が証券の発行者たる会社へ個人的に投資している場合も該当(基準6(2)の但書)。

基準6(2) 証券分析業務のうち顧客に対する投資情報の提供または投資推奨(以下「投資推奨等」という。)の業務に従事する会員は、顧客に投資推奨等を行う証券の実質的保有をしてはならない。ただし、公正かつ客観的な証券分析業務の遂行が阻害されることがないと合理的に判断される場合において、投資推奨等において当該証券の実質的保有の事実が顧客に開示されるときは、この限りでない。

〔趣旨〕
 信任義務を負っている会員は、証券分析業務の客観性、公平性を守り、また同業務に投資家の信頼を確保する観点から、投資推奨等の業務に従事する会員が担当証券に個人的投資することを防止する規制。但し、全面的に規制すると合理的ではない場合(相続で取得した場合など)もあることから、例外として取得を認めている。

〔留意点〕
原則:会員の個人的投資の禁止
例外:相続、贈与、所属会社の厳格なルール下での保有などは認められる。この場合には顧客への情報開示が必要となる。なお、短期の売買を目的としないで投資推奨等の方向と整合性がある場合、担当証券の実質的保有開始時期が当該企業の担当前である場合なども認められている。
なお、投資推奨を行う会員では、例外で保有する場合であっても、自己が行った投資推奨と逆に売買することは認められていない。

〔事例〕
・ 投資推奨先である会社の株式を相続したがその事実を顧客に開示していない場合。
・ 義父の名義を借用して、投資レポート担当会社の証券を売買している場合(合理的理由がない場合)。
・ 義父の名義を借用して、合理的理由がある場合に投資レポート担当会社の証券を売買しており、かつ、顧客への当該情報開示がない場合。

基準6(3)  投資推奨等の業務に従事する会員は、投資推奨等を行う場合は、自己が実質的保有しまたはそれが見込まれる証券の取引に優先して、顧客が当該投資推奨等に基づいて取引を行うことができるよう、十分な機会を与えなければならない。

〔趣旨〕
 基準6(2)の但書に基づいて実質的の保有する証券等について、会員が自ら投資推奨等の対象になる証券と同一の銘柄の証券について個人的な取引をする場合には、顧客が投資投資推奨等に基づいて優先して取引を行うことができるように十分な機会を与えた後でなければ、会員自身の取引を行ってはならないとの趣旨。

〔留意点〕
 投資推奨等を行う場合:特定の証券に対して投資推奨を行うことを意思決定した以降。調査レポート作成段階も含む。
十分な機会:提供手段の状況に応じて必要と判断される合理的な時間を自主的に定めた期間。

〔事例〕
・ 調査レポートを作成している段階でその対象銘柄を購入する場合。

基準6(4) 投資管理業務に従事する会員は、自己が実質的保有をしまたはそれが見込まれる証券の取引が、自己の関与する運用財産において行う取引の利益を損なうことがないよう、当該運用財産のための取引を自己の取引に優先させなければならない。

〔趣旨〕
 投資管理業務に従事する会員に対し、基準6(3)と同様の趣旨で規定したものである。

〔事例〕
・ 急落が確定的な株式がある状況で、会員の自己の株式をまず売却し、その後、顧客へ連絡して売却を勧める場合。
・ 上昇が確実と思われる情報を入手した状況で、会員がまず当該株式を購入し、その後に自己が管理するファンドに組入れ場合。

基準6(5)  会員は、顧客が同意した場合を除き、顧客との取引において当事者となりまたは自己の利害関係者の代理人となってはならない。

〔趣旨〕
 顧客の取引の相手方(又は代理人)になることを防止することで、顧客の利益を最善にすることを規定したものである。つまり、顧客が株式等を誰かに売却する場合、その相手方に会員がなると、顧客を騙したりする可能性を事前に防止しようとしたものである。

〔留意点〕
 自己の利害関係者:会員と一緒に生活している者など。なお、会員が役員である法人も当該利害関係者。

〔事例〕
・ 顧客が証券口座を解約する際、勝手に顧客保有の株式を会員が買い取り、顧客の口座に金銭を入金した場合。
・ 生計を一にする義理の父の会社の新株発行に際し、自己が行っているファンドで引き受ける場合。

基準6(6) 会員は、1.のほか次の事項を顧客に開示しなければならない。
イ.会員が、その顧客に対して提供した証券分析業務の対価として、自己の所属する会社または団体以外から収受しまたは収受することを約束したあらゆる報酬
ロ.会員が、その顧客に第三者の役務提供を受けることを推奨すること、またはその顧客を第三者に紹介することに関して収受しもしくは収受することを約束した、すべての報酬

〔趣旨〕
イ.自己の所属する会社または団体以外から収受しまたは収受することを約束した報酬を受け取る場合は、その報酬提供者への配慮から証券分析業の客観性、公正性を損なうおそれがあるため規定された。
ロ.紹介料の受け取りの場合の規定である。

〔事例〕
・ 販売量に応じて報酬がもらえるファンドを顧客のポートフォリオに当該ファンドを組み込んだ。ファンドを組み込むことにより、当該ファンド会社から会員が報酬をもらえることになっているが、これについて顧客へ情報を開示していない場合。
・ 投資レポートの対象となる会社の視察時に、その渡航費や現地でのホテル代などを投資レポートの対象となる会社から負担してもらったが、その事実を開示していない場合。

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職業倫理シリーズ NO.11

5.受任者としての信任義務

基準5(1) 会員は、証券分析業務を行うに当たっては、顧客その他信任関係にある者の最善の利益に資することのみに専念しなければならず、 自己および第三者の利益を優先させてはならない。

〔趣旨〕
 本基準は、受任者としての忠実義務について規定しているものである。信頼を受けた会員は、相手の信用、信頼に応え、その者の利益となるように最善を尽くすという高い倫理観が要請される。すなわち、顧客の利益の犠牲において、自己又は第三者の利益を図ることは行ってはならず、忠実に業務を遂行することが求められるのである。

〔留意点〕
 最善の利益:顧客等の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図ることなく、もっぱら顧客等の利益を追求した場合において最大限実現可能な利益をいう。
自分の利益を図ってはならないことの規定。

〔事例〕
 基準6(2)(3)(4)(5)、基準8(2)(4)に関する違反は全て忠実義務違反である。そのため、これらの違反の場合には必ず基準5(1)もあわせて違反ということを答案に記載する必要がある。事例については各基準を参照のこと。

基準5(2) 会員は、前項の業務を行う場合には、その時々の具体的な状況の下で、専門家として尽すべき注意、技能、配慮および勤勉さをもってその業務を遂行しなければならない。

〔趣旨〕
 基準5(2)は、信託義務の中の注意義務について、規定している。会員は、顧客に対して顧客が期待するサービスを提供できるよう、客観的に経済・金融市場の動向や投資を巡る環境の変化に注意・配慮を払い、適時適切に認識するとともに、職業的専門家としての経験や知識を生かし、調査・分析することが要求される。また、社会が期待する会員の高度な専門的能力を発揮することにより、社会的存在意義を構築するためにも注意義務を払い業務を実施することは、より重要となってくる。この基準は、会員が業務を遂行するにあたら保持しなければならない注意義務について、規定したものである。

〔留意点〕
 その時々の具体的な状況の下:顧客に関する状況、投資対象に関する状況などすべての状況を前提とした場合ということ。問題とされるべき注意義務とは、会員が行った行動が、その時点での状況を前提として、最善の注意義務を尽くしたか否かであり、結果として行動がおかしいから注意義務を怠ったということではないことを意味している。

プルーデント・マン・ルール:信託財産の運用はプルーデント・マン(思慮ある合理的な人間)が自分の財産を運用するように行われるべきであるというルール。

プルーデント・インベスター・ルール:プルーデント・マン・ルールを拡張させた概念であり、受託者が一般的に資産運用業界に受け入れられているポートフォリオ理論に従っていれば適法なものとするルール。

 注意義務を果たした行動であるといえるためにはプルーデント・インベスター・ルールに基づいた行動を行えばよい。

〔事例〕
 基準2総則(1)(2)(3)、基準3(1)イロ(2)、基準4(2)に関する違反は全て注意義務違反である。そのため、これらの違反の場合には必ず基準5(2)もあわせて違反ということを答案に記載する必要がある。事例については各基準を参照のこと。

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職業倫理シリーズ NO.10

4.不実表示に係る禁止等

基準4(1) 会員は、次に掲げる事項について不実表示をしてはならない。
イ.会員が顧客に対して行うことができる証券分析業務の種類、内容および方法その他証券分析業務に係る重要な事実
ロ.会員が有する資格


〔趣旨〕
 本基準は、会員が行う証券分析業務および資格等に関し、虚偽、誇大または誤解を生ずるような内容の発言、文書への記載、広告をしてはならないことを規定している。会員の能力を超えた開示を防止し、外部に対し誤解が発生することを回避するための規定である。

〔留意点〕
① 法人会員及び賛助会員も含む
② 金融機関における経歴、法人会員は沿革、在籍アナリスト数、企業グループ情報などが含まれる

〔事例〕
・ 過去の運用成績やファンド・マネジャーの資質・能力、経験について誇張表現をとった場合。
・ 当初投資手法で世界的に著名な投資家の助言を受けて投資していることを広告で謳ったが、契約満了してもなお広告で助言を受けていることを謳っている場合。
・ 有償で外部より調査関係の情報を入手し、これを利用して、当社オリジナルの投資情報として顧客に提供している場合。
・ 自社がアナリスト10名のところを20名と偽ったりするなど、自社が提供できる投資情報を過大に説明し、実態以上に高度の内容であるかのような印象をあたる表現をする場合。
・ 投資業務の経験が浅いのに長いと偽ったり、証券アナリスト資格は公的資格ではないのに公的資格であるような誤解を受ける表現をする場合。

基準4(2) 会員は、自己またはその所属する会社が達成しまたは達成することが合理的に期待される投資管理の成果を、顧客または広く一般に提示するときは、公正、正確かつ十分な提示が行われるよう合理的な努力をしなければならない。

〔趣旨〕
 本規定は主として資産運用会社を念頭に置いたものである。資産運用会社の運用実績は、投資家が資産運用会社を選択する際の重要な意思決定の判断材料である。そのため、投資家が複数の運用会社の中から自己の要求に適した会社を正しく選択できるよう、真実の情報を開示することが要求される。会員が、資産運用会社間での激化した競争の中で、自己のパフォーマンスを良好にみせるために恣意的な操作をすることを禁ずる規定である。

〔事例〕
・ 投資顧問会社の顧客である一投資家が非常に運用成績が良かった場合に、それをあたかもすべての投資顧問会社の顧客の運用成績が良いように提示した場合。
・ 運用成績が悪いデータを除いた運用成績データを顧客に提示した場合。
・ 運用成績が良かったチームが投資顧問会社から移籍してしまったが、これに対する提示がなされない場合。

基準4(3) 投資管理の成果の提示が、本協会の定める投資パフォーマンス基準のすべての必須基準に準拠しているときは、公正、正確かつ十分な提示が行われたものと認める。

〔趣旨〕
 日本証券アナリスト協会が資産運用会社による投資パフォーマンス実勢の公正な表示と完全な開示を確保するために、共通の自主ルールとして設けた規定。資産運用会社が見込み顧客や既存顧客に対し共通のルールに基づき投資パフォーマンスを定時、報告することにより、その信頼性と比較可能性が高まることが期待し、規定されたもの。

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職業倫理シリーズ NO.9

基準3(2) 会員は、次の事項を顧客に開示しなければならない。
イ.投資対象の選定またはポートフォリオの構築を行う際に適用する基本的原則と手法およびこれらについての重大な変更
ロ.個々の投資対象の基本的特徴


〔趣旨〕
 会員は、専門的能力を発揮し適切な調査・分析を実施することが可能であるが、一方、顧客は、会員と比較し入手可能な情報量も少ないうえ、多様な金融商品等の金融サービスが提供され金融技術が革新している今日において、投資対象商品のリスク・リターンの特性を理解することが困難さを増している。そのため、顧客が、合理的かつ十分な情報のもとで、自己責任において適切な投資判断を行うことが可能となるよう、投資判断に影響を与える情報については、迅速かつ適切に開示しなければならない。

〔留意点〕
① 情報開示することによって、適合性の原則が遵守されているかを投資家が判断。
② 運用政策、運用手法、運用体制・手続などを開示。

〔事例〕
・ マルチ・ファクターモデルを中心とした投資手法から自己判断による投資手法に変更したが、これを対外的に公表していない場合。
・ インデックス・ファンドでTOPIXを完全法でトラックすることを外部公表したが、実際には層別抽出法により運用した場合。なお、完全法及び層別抽出法は証券分析にて。
・ 先物によるポジションの調整によって短期にトラッキングを行うというファンドの性格上、中長期のトラッキングは確保されない。そのため中長期的にインデックスが安定していても、相場変動のパターンによってはファンドの価額は大幅に目減りすることがありうる。このような場合に、当該説明を怠った場合には当規定違反となる。

基準3(3) 会員は、顧客または広く一般に提供する投資情報の作成に当たり、他人の資料を利用する場合には、出所、著者名を明示するなど慎重かつ十分な配慮をしなければならない。

〔趣旨〕
 会員は、職業的専門家として綿密な調査・分析のうえ、投資情報を作成しなければならない。そのため、他人の資料を自己の資料のように利用して開示する場合には、当該情報の信憑性について十分に検討し、慎重かつ十分な配慮をする必要がある。高度な倫理観を有した専門家として、他人の資料を自己の調査に基づき作成した資料のようにして扱うことや、無断で使用するようなことはあってはならないことを規定したものである。

〔事例〕
・ 他の者のリサーチ・レポートをそのまま自己のリサーチ・レポートとする行為。
・ 英文のレポートを翻訳したものをそのまま利用して自己のレポートとする行為。
・ 専門の学術雑誌や論文の記述について、出展を明記せずに利用する場合。

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職業倫理シリーズ NO.8

3.投資情報の提供等

基準3(1)
 会員は、投資情報の提供、投資推奨または、投資管理を行う場合には、次の事情を守らなければならない。
イ.合理的な根拠と適正な表示
(イ) 綿密な調査・分析に基づく合理的かつ十分な根拠をもつこと。この場合、それを裏付ける適切な記録を相当期間保持するように努めるものとする。

〔趣旨〕
 注意義務の具体的規定であり、本基準は、証券分析業務を実施するに前提として、高度な専門性を発揮し、公正かつ客観的な判断を行うため、綿密な調査・分析を行い合理的かつ十分な根拠を形成することを規定している。また、合理的な根拠を形成するまでの過程で入手した資料は、継続的に業務を提供していくための基礎資料としてのみならず、後日争いが生じた場合の対抗手段として、相当期間保持しておくことが求められる。

〔留意点〕
 適切な記録:綿密な調査・分析に基づく合理的かつ十分な根拠資料のこと。
〔事例〕
・ 企業調査を行っている会員が企業訪問などの直接訪問を行わず、他の投資情報会社が発行する投資情報を情報源として投資レポートを作成している場合。
・ 企業調査を行っている会員が入手した資料を廃棄し投資の情報源や裏づけ資料を保存しない場合。
・ 会員が、新聞や雑誌を参考にしてレーティング評価をしている場合。

基準3(1) イ(ロ) 事実と意見とを明確に区別すること。

〔趣旨〕
 証券分析において綿密な調査・分析を実施する過程では、多種多様な情報を入手することが期待される。しかし、これら大量の情報は、既に公表された決算実績「事実」のみならず、今期以降の業績予測等の将来の不確実性を伴う予測が介入することの多々ある。本基準は、将来の状況により変動する可能性がある予測については、確定情報としての「事実」とは、明確に区別し「意見」として表現することを規定したものである。明確に区分しないと、会員と顧客間に情報のギャップが生じ、顧客が不測の損害を被る可能性がある。このようなトラブルを避けるために、この基準が規定されている。

〔留意点〕
 過去の情報→事実、将来の情報→意見

〔事例〕
・ 会員が、上期の時点で増収増益を達成したので、下期も販売は好調であると判断して、通期も増収増益を達成と事実のように投資レポートを作成している場合。
・ 会員が、過去の実績数値と将来の実績数値を不明瞭に混在させて、投資レポートを作成している場合。

基準3(1) イ(ハ) 重要な事実についてすべて正確に表示すること。

〔趣旨〕
 会員が綿密な調査・分析により入手する情報には、会員の結論付けにマイナスの影響を及ぼす情報もあれば、顧客にとっての投資判断を揺るがす情報もある。しかし、会員が信託義務を果たし、また、顧客が投資判断を誤ることを防止するため、重要な事実についてすべて正確に表示しなければならない。

〔留意点〕
① 重要な事実:顧客の投資判断に重要な影響を及ぼすと考えられる事実。
② 正確に表示:重要な事実が網羅的であり、内容も十分かつ明瞭であること。

〔事例〕
・ 癌の特効薬の臨床試験を開始し、数ヵ月後には同薬の市販が許可される可能性が高い場合に、会員が投資レポートに数ヵ月後に市販されると断定する表現をした場合。
・ PERが割安であることのみを理由に、会員が割安推奨した銘柄がある場合に、当該推奨会社が新株予約権を発行しており、将来希薄化する可能性があることを全く言及していない場合。

基準3(1) イ(ニ) 投資成果を保証するような表現を用いないこと。

〔趣旨〕
 会員の提供するサービスは、将来の予測に基づくものであり不確実性を伴う。このため、 どんな場合にも、一定の利益を確実にもたらすことを保証することはできない。しかし、会員の中には投資成果を確実に保証するような表現をとり、顧客との間に誤解が生じることもある。このようなトラブルの発生を防止し、アナリスト業界全体の社会的信頼を保持するためにも、本規定が設けられている。

〔留意点〕
 一定の利回りを保証や損失填補することを約することを禁止する。なお、前提条件を設けることにより、株価の目標値を示すことはここでいう「保証」には該当しない。

〔事例〕
・ 投資管理を行っている会員が、顧客との間で10%以上の運用利回りを確保する契約を締結する行為。
・ 「絶対損をさせません」と投資成果を保証すること。
・ 過去に推奨した銘柄が的中したものだけを顧客に見せ、あたかも会員が毎回投資成果をあげているような説明をする場合。

基準3(1) ロ.投資の適合性
(イ) 顧客の財務状況、投資経験、投資目的を十分に確認すること。また、必要に応じてこれらの情報を更新(最低でも年1回以上)すること。
(ロ) 顧客の状況、ニーズ、投資対象およびポートフォリオ全体の基本的特徴など関連する要素を十分に考慮して、 投資情報の提供、投資推奨または投資管理の適合性と妥当性を 検討し、顧客の投資目的に最も適合する投資が行われるよう常に配慮すること。

〔趣旨〕
 会員は、信任義務を遵守し、顧客の利益のために最善を尽くすため、顧客のニーズを捉えていることが重要である。顧客のニーズは、個人や法人で異なるうえ、顧客の置かれている状況も、資産の額、規模、投資目的等様々である。会員は、顧客の投資目的に最も即応した投資が行われるよう配慮するために、本規定が設けられている。

〔留意点〕
(イ)に関して
① 財務状況、投資目的はアセットアロケーションのため。
② 投資経験は顧客が理解できない商品等を選択するのを防止するため。
(ロ)に関して
① 注意義務から派生した適合性の原則という。
② 個々の投資対象のみならず、顧客の組んでいるポートフォリオ全体を考慮すること。
③ リサーチ・レポートでは、投資対象のリスクをできるだけ詳細に記載する必要がある。

〔事例〕
(イ)に関して
・ 顧客に関する過去の情報だけを基に投資アドバイスをしている場合。現在の状況などを常に更新していなければならない。
・ 新規顧客について、顧客の財務状況、投資経験や投資目的を聞かずに投資推奨すること。
(ロ)に関して
・ 顧客預かり資産の大きい順にハイリスクな商品を推奨している場合。顧客資産が大きいからといって、リスク許容度が高いとは限らず、顧客の意思に反する可能性があるため。
・ 投資経験が乏しい人の集まりの場において、ハイリスク商品を推奨する行為。

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職業倫理シリーズ NO.7

2.総則

基準2(1)

会員は、証券分析業務のもつ重要な社会的役割にかんがみ、誠実に職務を励行し、互いに証券アナリストの社会的信用および地位の向上に努めなければならない。

〔趣旨〕
証券アナリストとしての基本理念と職業的専門家としてのあるべき基本的姿勢および心得を示したものである。

〔留意点〕
互いに:他の会員と相協力すること

基準2(2)

会員は、常に証券分析に関する理論と実務の研鑽に精進し、その職務にふさわしい専門能力を維持し、向上させなければならない。

〔趣旨〕
証券アナリストの社会的存在意義は、高度な知識と専門的能力を有していることにある。そのため、会員は、常に証券分析に関する理論と実務の研鑽に精進し、専門能力を向上させることが求められている。

基準2(3)

会員は、証券分析業務を行うに当たって、専門的見地から適切な注意を払い、公正かつ客観的な判断を下すようにしなければならない。

〔趣旨〕
会員は専門家であるので、一般人以上の注意を払うのは当然であるが、証券分析業務は様々な投資家に影響を及ぼすのでより慎重に判断を下す必要があることを明記した規定である。

〔留意点〕
① 公正な判断:利害関係に捉われずに投資家のために公正な判断をすること。
② 客観的な判断:恣意性(自分の気持ちを故意に入れること)を排除し、緊密な専門的分析に基づく判断をすること。

基準2(4)

会員は、関係法令ならびに本協会の定款、規則およびこの職業行為基準を遵守しなければならない。

〔趣旨〕
会員が直面するすべての事態を想定して職業行為基準に盛り込むことはできないので、他の規定等を利用してすることを目的としている。

基準2(5)

法人会員および賛助会員は、本基準を尊重し、その役職員または構成員である会員が関係法令並びに本協会の定款、規則およびこの職業行為基準に違反することがないよう必要な指導を行うとともに、会員による証券分析業務の独立性および客観性が確保されるよう努めなければならない。

〔趣旨〕
職業行為基準の遵守及び励行させ、一層実効性を高める目的である。

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職業倫理シリーズ NO.6

第3節 職業行為基準解説 

1.定義

基準1(1)

「会員」とは、個人会員(検定会員および一般会員)をいう。
ただし、基準「4.不実表示に係る禁止等」に定める会員には、法人会員および証券分析業務を行う賛助会員を含む。

〔趣旨〕
証券アナリストは、高度な専門的知識と人格・倫理を有する専門家であることから、個人の行動が重要なので、個人に対して必要な行為基準を設定することを目的としている。ただし、基準4については、行為の性格上、個人会員のみならず、法人会員および賛助会員(本協会の目的および事業を賛助する法人または団体で、理事会の承認を得て会員)も含めることとしている。

〔留意点〕
職業行為基準はすべて個人に適用。基準4のみ法人も適用。

基準1(2)

「証券分析業務」とは、証券投資に関する諸情報の分析と投資価値の評価とに基づく投資情報の提供、投資推奨または投資管理をいう。

〔趣旨〕
この職業行為基準の適用対象となる証券分析業務を定義する規定である。

〔留意点〕
① 投資情報の提供:投資家の判断材料の提供(有償無償問わず)→ リサーチ
② 投資推奨:証券投資や資産配分・選択の助言 → リテール業務、投資顧問など
③ 投資管理:顧客のために行うポートフォリオの運用管理 → ファンド・マネジャー

基準1(3)
「信任関係」とは、会社とその役員、信託の受益者と受託者、証券の発行者と引受人、年金基金とその理事、顧客と投資顧問業者等、一方が相手の信頼を受けて、専門的業務または相手方の授権に基づく業務を行う関係をいう。
基準1(4)
「信任義務」とは、信任関係に基づき信頼を受けた者が、相手方に対して真に忠実に、かつ職業的専門家としての十分な注意をもって行動する義務をいう。

〔趣旨〕
基準5に繋がる規定である。

〔留意点〕
① 信任関係:専門家に物事を任せる関係。医者、弁護士及びアナリストと依頼者の関係など。
② 信任義務:①を原因として受任者(医者、弁護士、アナリストなど)が負う義務。忠実義務と注意義務が存在(基準5(1)(2))。

基準1(5)

「実質的保有」とは、証券の名義人であるか否かにかかわりなく、当該証券に関する経済的利害が当人に帰属する場合の保有その他の関係をもつことをいう。

〔趣旨〕
会員が証券の名義人とならない場合でも、一定の場合には証券の所有者と同様に扱い、利益相反(顧客と会員との利害が対立すること)防止の観点から規制を行う必要があることから、どのような場合に同様に扱うかを明らかにしたものがこの規定である。

〔留意点〕
要するに会員が実質的にカネを出して、証券を購入又は空売りすれば、実質的保有になる。

基準1(6)

「重要な情報」とは、特定の証券の発行者に係る情報であって、一般の投資者の投資判断または証券の価格に重大な影響を与えるものをいう。

〔趣旨〕
一般に重要な情報には、証券の発行者に係る情報と市場情報とがあるが、本規定においては、証券の発行者に係る情報に限定している。

〔留意点〕
本規定における「重要な情報」には、投資者の意思決定に著しい影響を与えると認められる情報は、すべて含まれる。

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職業倫理シリーズ NO.5

3.忠実義務と注意義務とその他の規定との関係図

(1) 忠実義務

忠実義務をより具体化した規定が職業倫理規定では定められている。そのため、2次試験において、当該具体的な規定違反が認識できた場合には、必ず、セットで忠実義務にも違反していることを記載する必要がある。

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(2) 注意義務

注意義務をより具体化した規定が職業倫理規定では定められている。そのため、2次試験において、当該具体的な規定違反が認識できた場合には、必ず、セットで注意義務にも違反していることを記載する必要がある。但し、注意義務は概ね基準3から基準8のすべてのベースになる。つまり、注意義務というのは、すべての規定にからむ義務であり、忠実義務を実は包含するという説もある。したがって、全く分からない場合にはこの注意義務違反を書いてくればよいことになる。
一応、注意義務を具体的・直接的に記載している基準との関係を掲載する(忠実義務にも下記にもない基準は間接的に注意義務を具体的にしていると考えるとよい)。

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